Column. 01 | FYSKYの目指す革靴
January 10, 2021
Written by Yosuke
2022年1月、オーダーメイドの革靴ブランドとしてスタートを切ったFYSKYですが、ここに辿り着くまでの物語は今から12年前、2009年に遡ります。
「靴の街」浅草の工房でシューメイキングを学び、独立当初は個人のお客様から細々とビスポークシューズの製作を請け負っていました。ビスポークの語源は英語の「be spoken」で、既製品を意味する「レディメイド」と対になる言葉です。足の採寸を元に、一人ひとりのお客様に合わせた木型を製作し、細かな調整を重ね革靴を製作するため、価格は50万円以上。非常に手間のかかる作業になるため、納期も半年から一年かかる商品です。
一人ひとりのお客様の特徴的な足にフィットすること。様々なデザイン的なご希望に応えること。このことを追い求め、来る日も来る日も無我夢中で小さな工房に篭り、革靴の製作に当たる日々が続きました。扱う道具が増え、知識や技術が深まるにつれ、次第にセレクトショップへのデザイン提供や、他ブランドのレディメイドシューズの製造のお仕事を請け負うことも増えていきました。
靴職人として必死に走ってきた12年間、個人のお客様や他ブランド様から色々なご相談を頂く機会が増えていく中で、心の中には小さな疑問が芽生えるようになりました。それは、自分や自分の友人が履きたいと思う靴を自分は作っているのか?そもそも、自分が理想とする革靴とは一体どんな靴なのだろうか?という疑問です。
個人のお客様の中には高額なビスポークシューズを非常に大切にして下さり、日常的に履くというよりも、装飾品の様に扱って下さる方もいらっしゃいました。職人として有り難さが込み上げる一方、自分が思い描く革靴の理想は、日頃からスニーカーの様な感覚で気軽に履いていただける履き物、という想いもありました。
デザインの面でも、セレクトショップや洋服のデザイナーさんから依頼を受けて製作する革靴はどれも素敵なものばかりですが、それはオーナー様のお店や、その先のお客様にとってベストなデザインで、自分のデザインとは言えるものではありません。
僕自身が本当につくりたい革靴とは、一体どんなものなのか?考えを巡らせた末に辿り着いた答えは『より多くのお客様にとって手が届く価格で、履き心地が良く、普段の生活に自然に溶け込む革靴』というものでした。言葉にしてしまえば月並みですが、それを今の自分が持てる知識と技術、経験を元に、研究を重ね、プロダクトに落とし込んだのが、現在のFYSKYというブランドです。
革靴の元となる木型に関しては、一人ひとりのお客様のために毎回新しいものを製作するのではなく、オリジナルで開発した多くの日本人の足に合う汎用性のあるものを使用。アトリエにて、その木型を元に製作したフィッティングサンプルを実際に履いていただくと共に、お客様の足を採寸しカルテを作成。靴を製作する段階で一人一人の足の形に合った形にアジャストしていきます。これは一般的にはセミオーダーと言われる製法で、ビスポークシューズに比べて価格と納期を大幅に抑えることが可能となります。肝心の履き心地は、元となる木型やフィッティングサンプルのクオリティ、足を正確に採寸しその特徴に合った靴を製作する技術によって決まります。FYSKYではこの点に徹底的にこだわり、ビスポークシューズに引けを取らない快適さを追い求めています。
デザインに関しては、カジュアルからフォーマルなスタイルまで、様々な服装、着用シーンに溶け込むものを目指しました。人は靴だけを履いて外を出歩く訳ではありません。どの様なスタイルにしても、靴だけが必要以上に目立つのではなく、その日の装い全体の中で、自然に馴染むデザインが理想だと考えています。研究と試作を重ね開発したデザインは、シンプルながら必然的で、前後左右どこから見ても美しいシルエットです。レザーや細かなデザインはお客様と対話を重ねながら決定していきます。革靴通の方に向けてはマニアックな意匠にもお応えしますが、具体的なイメージが湧かない場合はお任せいただきFYSKYのスタンダードをお求めいただくのもお勧めです。
革靴は物理的に人の足を守る道具であると同時に、履く人の装いや気分まで輝かせ、引き締まったものにする、そんな履き物です。FYSKYは、お客様の生活の中に自然に馴染み、長く愛用いただける、そんな革靴の製作を続けていきます。